和田秀樹著『80歳の壁』幻冬舎新書の紹介
和田秀樹氏の本が気になったので,2冊目も買って読んでみました。1冊目『70歳から一気に老ける人老けない人』と重複するところもありましたが,すっと読むことができ,いろいろな示唆を私に与えてくれました。そこで,今回も問題を作りながら本の紹介をします。問題の答えを見ないように自分で工夫しながら,お付き合い,よろしくお願いします。
ここからが,本文の内容になります。ここから本文中の私は,全て<和田氏>になります。
北海道夕張市は住民の約半数が高齢者で,全国の市区の中で「高齢化率日本一」と言われた町です。市民にとって病院は命を守る生命線だと思われていました。ところが,2007年に夕張市は財政破綻をし,唯一の私立総合病院が閉院してしまったのです。総合病院は小さな診療所になりました。171床あったベッド数は19床に減らされ,専門医もいなくなりました。高齢者の多い町で,どうなるのだろう?市民はもちろん,多くの人が心配しました。結果どうなったと思いますか。
予 想
- ア.重病で苦しむ人が増えた
- イ.「ガン,心臓病,肺炎」で亡くなる人が増えた
- ウ.ベッドが足りなくなり隣の市町村のベッドを使うようになった
- エ.死亡する人の数は,以前とほぼ変わらなかった
- オ.その他
正解は,エです。死亡する人の数は変化しなかったそうです。「ガン,心臓病,肺炎」で亡くなる人の数は減り,ベッドは空きが出るほどになったそうです。高齢者一人当たりの医療費も減ったそうです。
予 想
- ア.脳疾患
- イ.老衰
- ウ.自殺
- エ.その他
正解は,イ.老衰です。夕張市では病院が小さくなったため,在宅医療への切り替えを余儀なくされた人もいました。患者さんが入院を望まず,在宅医療を選択したケースが多かったそうです。病院で検査をして病気を見つけてもらい,薬や手術をして寿命を延ばすのか,自宅や老人ホームで好きなことをしながら生きるのか――。それは,医師ではなく,自分が選択することなのです。
この国では,患者の生き方より医療の事情を優先すると和田氏は言います。和田秀樹氏は,3年前,とてものどが乾くので検査をすると血糖値が600mg/dlを超えていたそうです。いわゆる糖尿病です。一般には,インシュリンを投与するレベルだそうです。ところが彼は「インシュリンを打たない」と決めていたので,さまざまな薬をためしたが効かなかったそうです。そこで,「歩くこと」で治したそうです。
和田氏に言わせると,医師は「健康の専門家」ではなく「臓器の専門家」だそうです。医師が「病気が治る」というときは,「臓器の状態がよくなる」ということです。例えば,循環器内科の医師は高齢者に「コレステロール値を下げよ」と指導します。動脈硬化になりやすく,心筋梗塞や脳梗塞で死ぬ人が増えるからです。しかしコレステロール値を下げれば,免疫機能が低下してしまうので,するとガンが進行したり,感染症にかかりやすくなったりします。つまり,血管系の疾患で死ぬ人は減ったけど,ガンや肺炎で死ぬ人が増えた,ということが起こるのです。
動脈硬化とは,動脈(血管)の壁が厚くなり,硬くなることです。これが心臓を取り巻く冠動脈で起これば心筋梗塞,脳の動脈で起きれば脳梗塞ということになります。この動脈硬化を予防するには,血圧や血糖値やコレステロール値を下げる治療が行われるわけです。
ここで問題です。
予 想
- ア.血液内の酸素や栄養分が,全身の細胞に行きわたらなくなってしまう。
- イ.免疫機能が落ち,さまざまな病気にかかりやすくなる。
- ウ.ガンのリスクが高まる。
- エ.その他
正解は,アとイとウです。最もダメージをうけるのが脳です。酸素や糖分が届かず,低酸素,低血糖を引き起こします。この結果,頭がぼーっとする。意識が飛ぶ,ということが起きます。また,免疫機能が落ちます。免疫機能が落ちるため,ガンのリスクは逆に高まるとさえ考えられるのです。特にコレステロールは免疫細胞の材料となるため,コレステロール値が高いほどガンになりにくいという調査データもあります。
以前,私の血圧は220くらいありましたが,自分ではとくに問題を感じていませんでした。医師から「心肥大の傾向がある」と言われ,心臓の負担を減らすために降圧剤を服用し,血圧を下げることにしました。正常値まで下げましたが,体がとてもだるくなり,頭もぼーっとします。そこで,高めの170でコントロールすることにしました。ところが,5年ほど経過するうちに,今度は心臓の状態が悪くなってきました。医者からは,心不全と診断されました。複数の薬を試すと,利尿剤が効きました。世の中には,可能性がゼロなんてものは,何一つありません。ゼロリスクのものなんて存在しないのです。怯えたって,避けたって,なるときはなる。本当にそうなってしまったら「ああ,きたか」と腹をくくって対処する方がいいと思います。
予 想
- ア.数値が悪いから長生きできない,という根拠が日本にはないから
- イ.医師が患者を診ないで数値を見て判断を下すから
- ウ.その他
正解は,アとイです。健康診断の「正常」とは,多くの場合平均値を中心に高低95%の人の数値を言います。「異常」はその範囲を超えて高過ぎ,低過ぎの人の数値を示したものです。正常値でも病気になる人,異常値でも病気にならない人もいます。つまり,どこまでが正常で,どこからが異常かは,個々人によるものなのです。
高齢者になると,うつ状態が多くなるのは事実です。実際に,認知症とうつ病は,見分けがつくにくいところがあります。そこで,問題です。
問題5.来院された人に対して,私が最初にする質問は次の2つです。それは,「ちゃんと眠れていますか?」と「食欲はありますか?」の2つです。
予 想
- ア. どちらかというと認知症の可能性がある
- イ. どちらかというとうつ病の可能性がある
予 想
- ア. どちらかというと認知症の可能性がある
- イ. どちらかというとうつ病の可能性がある
うつ病による不眠は,寝つきが悪い「睡眠障害」より,眠りが浅い「熟睡障害」の方が多いからです。また,食欲に関しても「何を食べても美味しくない」とか「食が細くなった」と言うなら,うつ病の可能性が高いです。正解は,①②ともにイ(うつ病の可能性が高い)になります。もう一つ,高齢者のうつ病によく見られるのが,記憶障害です。もの忘れがひどくなり,着替えも面倒くさがって,お風呂にも入らなくなる。こうした症状は,認知症にもうつ病にもみられるために判断が難しいのですが,うつ病の薬を出して症状がよくなったのなら「うつ病」と確定するわけです。その症状が,単なる老化なのか,認知症なのか,それともうつ病なのか。この判断は難しいのですが,「年末から急に」などと時期が特定できる場合は,うつ病の可能性が高いため,うつ病の薬を出して様子を見ます。
ところで,なぜうつ病になってしまうのでしょうか?原因は大きく分けると「心因」と「身体因」の二つがあります。「心因」は,妻や夫に先立たれたとか,ペットが死んだとか,今回のコロナ禍のように趣味が途切れたなど,心の拠り所をなくしたような場合です。「身体因」は,外出しなくなってセロトニンが不足したとか,食事が偏って栄養素が不足しているなど,体に由来する場合です。例えば,夏にあっさりした麺類ばかり食べ,たんぱく質不足でうつ病を発症するケースなどもあります。
認知症は基本的には老化現象です。つまり,少しずつ大人しくなっていくのが通常のパターンで,家に閉じこもる人の方がずっと多いのです。「ボケたら徘徊する」というのは,勝手な思い込みです。認知症は「スペクトラム障害」と考えられるもので,軽度から重度まで,幅のある障害なのです。アメリカのレーガン元大統領やイギリスのサッチャー元首相は,発症の数年後に会話ができないほど悪くなってから認知症を告白しましたが,在任中もおそらく軽度の記憶障害くらいはあったはずです。つまり,認知症になっても,首相や大統領も務まる,ということです。ただし,注意してほしいこともあります。例えば認知症の中には「記憶力は衰えているが理解はできる」という人がいます。そのため勘違いや,総合的な判断の誤りが起こりやすくなるのです。認知症を遅らせる方法は,薬より頭を使う方が有効です。
私は,鹿嶋市と杉並区の2か所で認知症の患者さんを診ていたことがあります。そのときに気づいたのが,鹿嶋の人ほうが,認知症の進行が遅いということでした。
ここで,最後の問題です。
予 想
- ア.鹿嶋の患者さんは,普段の生活を続けていたから
- イ.鹿嶋の患者さんは,漁業や農業を続けていたから
- ウ.杉並の患者さんは,家族が「危ないから」と言って,家に閉じ込めてしまう傾向があったから
- エ.その他
正解は,ア,イ,ウ全てになります。体で覚えたことは認知症になっても,変わらずにできるわけです。行動すれば体だけでなく,頭も使う。これが認知症の進行を遅らせている理由だろうと,私は確信しています。
意外かもしれませんが,認知症の人は一人暮らしもできます。例えば,「臭くてたまらない」という家に行くと,足の踏み場もないほど散らかっています。ほとんどがコンビニ弁当の空箱。おそらくずっとお風呂にも入っていないことがわかります。しかし,そんな状況なのに,生きているわけです。認知症になったら何もできない,なんて決めてかかる必要はありません。最後まで生きる力,生き抜く知恵が備わっている。人間はとても強いのです。
本文はここまでです。
※
自分自身(ヒロじい)のこれからの身体についての対処法を考えようと,本を読み始めました。80代になると急に体に変化が起こるらしいのですが,60代,70代から考えて行動しないといけないようです。何はともあれ,自分の健康について将来は分からないのですから,和田氏曰く「出たとこ勝負しかない」ということでしょう。
2022年12月に亡くなった自分の母親の状態をみて思うことは,<老いる>ということは,母親にとっても周りの人間にとてもたいへんな事だということです。<老いる>ということは,老いた自分のできることが少なくなっていくからです。
ところが,です。和田氏は,認知症になってニコニコ笑顔で幸せにくらしましょう,と言います。素の人間になりましょう,とも言います。
最後に和田氏の老人(私自身)に向けての言葉を忘れないように書いておきます。
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長生きが大事なのか。残りの人生が大事なのか。
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寝たきりは終わりではない。だからこそできることもある。
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老いや衰えを受け入れる。まだある機能で勝負する。
最後まで読んでいただき,ありがとうございました。