- 岸田秀著『ものぐさ精神分析』の紹介
- 問題1.岸田秀氏が考える日本国民の精神的な病名は何であると思いますか。次の予想の中から1つ選んでください。
- 問題2.そもそも個人の統合失調症とは,どんな症状(状態)なのでしょうか。次の予想から1つ選んでください。
- 問題3.岸田氏は次のように言います。「欧米諸国に屈従する外的自己は,その存在を否認しなければならない。それは,いやが上にも純化された内的自己の自尊心に突き刺さった棘になる。外的自己は非自己化され,投影される」つまり,日本は自分の自尊心を守るために自分がされた同じことを違う国にしたということです。その投影の対象に選ばれたのは,どこの国でしょうか。
- 問題4.岸田氏によると,日本は精神分裂病的といいます。それでは,対米英宣戦布告は病気に例えると次のうちどれに当たると岸田氏は言っているでしょうか。
- 問題5.太平洋戦争(大東亜戦争)での日本敗戦の原因について,日本社会ではいろいろ言われています。岸田氏は,日本敗戦の原因についてどう見ているでしょうか。次の予想から選んでください。(答えが,一つとは限りません)
- 問題6.敗戦後の日本では,精神分裂病的な態度はどのようなものになったと岸田氏は,書いているでしょうか。予想の中から選んでください。(答えが,一つとは限りません)
- 問題7.岸田氏が言うところの「日本の幻覚や妄想」とは何だと思いますか。次の予想の中から選んでください。
岸田秀著『ものぐさ精神分析』の紹介
学生時代の私は,暗記することがとてつもなく多いという理由で歴史を学ぶことが大嫌いでした。仮説実験授業を学ぶようになり,歴史を見る視点を板倉さんに教えてもらってから歴史を学ぶことが好きになりました。私は,特に近現代史に興味を持っていて,明治維新から自分が生まれる頃までの日本の歴史について考えることが多いです。
心理学について,私は教育学部の学生だったので,ピアジェやフロイトの名前は知っていました。しかし,心理学の考え方や内容については,ほとんど知りません。私の心理学についての感想は,「ねずみの実験をして,人間の心理なんか分かるわけないでしょう」です。
ところが,岸田氏は心理学を通して日本社会を分析したのです。実は,フロイド理論(岸田氏はフロイドと書いています)は何よりもまず社会心理学だそうです。「フロイトはまず集団心理現象を下敷きにして,そのアナロジー(※1)にもとづいて神経症者個人の心理を理解しようとした」と,岸田氏は書いています。心理学を使って集団は分析できると考えられているそうです。
話を元に戻します。今の日本の社会の成り立ちや日本社会そのものについて,私は「なぜなの?」「どうして?」と思うところがいくつかありました。今回は,私の疑問とその答えについて考えていきたいと思います。
私は,日本の歴史を学ぶうちにいくつかの疑問を抱くようになりました。その疑問について大きくは,次の3つになります。
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なぜ日本は,いつまでも半分独立国のままなのでしょうか?日本は,アメリカの属国(アメリカの軍隊が駐留している)のままでいいのでしょうか。日本人は,アメリカから完全に独立したい気持ちはないのでしょうか?
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先の大戦において,アメリカによって日本は多くの都市を爆撃されたり,原爆を投下されたりしました。アメリカによって日本の多くの民間人が殺されました。このことに対して,なぜ日本政府は,アメリカに対して正式に抗議をしなかったのでしょうか?(民間施設の攻撃について,ウクライナはちゃんとロシアに抗議をしています)
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先の大戦において,戦争とはいえ特攻隊やインパール作戦など日本軍は,人命を軽視した作戦が多かったのはどうしてでしょうか?反対にアメリカ軍は,「ゼロ戦を見かけたら逃げてもいい」とパイロットに伝えていたらしいのです。パイロットが亡くなると作戦の遂行ができなくなるからです。また,アメリカ軍の基地では,テニスをすることも可能で,実際にテニスをしていたそうです。この違いは,どこからくるのでしょうか?
私は,「日本人は,勤勉で優秀だ」と思っています。しかし,上記の3点について「日本人は,なぜそうなのか?」と,今までどうしても分からなかったのです。そんな中,『ものぐさ精神分析』というタイトルの本に出合いました。
この本を紹介してくれたのは,岡田斗司夫氏です。この本『ものぐさ精神分析』を読んで驚きました。精神分析というと,普通は人に対して使うはずです。ところが岸田秀氏は,国(集団)に対して精神分析をしているのです。この設定に驚き,読んでその内容にも驚きました。今回は,具体的に岸田秀氏の日本に対する考え方をお伝えできたらと考えています。
実はこの『ものぐさ精神分析』は大きく5つの章に分かれています。その章は,歴史について,性について,人間について,心理学について,自己についてです。のこのレポートでは,歴史についての章の中から<日本近代史を精神分析する>と<吉田松陰と日本近代>の2つを選んでお伝えします。
今回も無理やり選択肢を作りましたので,積極的に考えてくださるとうれしいです。最後に,岸田秀氏の考え方に対するみなさんの考えをお聞かせください。誤解が無いように書いておきますが,私は岸田氏の考え方が<正しい>とは考えていません。そんな考え方もあるのかという驚きと,自分の知見が広くなったという嬉しさはあります。板倉さんが言うところの<仮説実験>によって,岸田氏の考えは,これからの歴史によって証明されていくだろうと予想しています。証明というのは,間違いも含めて正しいかどうか判断されるという意味です。それでは,早速本文の内容に入っていきます。
岸田氏は,精神分析について次のような考え方をしています。
一つの集団の歴史は,一人の個人の歴史として説明できるという立場にたって,わたしは幕末から現代に至る日本国民の歴史を一人の神経症ないし精神病の患者の歴史として考察してみようと思う。歴史を動かす力を経済的条件に求める唯物史観と根本的に対立するであろうが経済的条件はいっさい考慮に入れないことにする。ここ1世紀あまりのあいだに直面したかずかずの歴史的危機に際して日本国民がなぜこの道を選び,あの道を選ばなかったか,なぜこのように振舞い,あのように振舞わなかったのかの心理学的理由の一端を解明するのが,この考察の目的である。
いきなりですが,問題です。問題の後,数行で答えが出てきますので,答えを見ないようにして考えてください。
問題1.岸田秀氏が考える日本国民の精神的な病名は何であると思いますか。次の予想の中から1つ選んでください。
予 想
- ア.依存症的
- イ.適応障害的
- ウ.精神分裂病的(統合失調症的)
- エ.うつ病的
- オ.強迫性障害的
- カ.その他
答えは,ウ.精神分裂病的(統合失調症的)になります。(注意:精神分裂病は,病名が統合失調症(2002年)に変更されています。精神分裂という言葉のイメージが誤解や偏見を生む可能性があるからです)岸田氏は次のように書いています。
日本国民の精神分裂病的素質をつくったのは,1853年のペリー来航の事件である。日本は,おとなの人間関係を結べるほど精神的に成熟していなかった。だからと言って,つきあいたくないとペリーを追い返す力はなかった。日本は無理やりに開国を強制された。司馬遼太郎がどこかで日本はアメリカに強姦されたと言っていたが,まさに日本は無理やりに股を(港を)開かされたのである。別の譬えを用いれば,苦労知らずのぼっちゃんが,いやな他人たちと付き合わなければ生きてゆけない状況に突然投げ込まれたのである。それまでの状況とその状況との落差がひど過ぎた。それは日本にとって耐えがたい屈辱であった。このペリー・ショックが日本を精神分裂病質にした病因的精神外傷であった。
ペリー来航が日本に与えたショックが,現代にも通じるようなとても大きな事件だったと私は思いもしませんでした。ここからの岸田氏の考察は見事です。(見事なのですが,文章が難しいです。板倉さんの文章のように,心にすっと入ってきません。)
ペリー・ショックによって惹き起こされた外的自己と内的自己への日本国民の分裂は,まず,開国論と尊王攘夷論との対立となって現れた。開国は日本の軍事的無力の自覚,アメリカをはじめとする強大な諸外国への適応の必要性にもとづいていたが,日本人の内的自己から見れば,それは真の自己,真実の伝統的日本を売り渡す裏切りであり,屈辱であった。この裏切りによって,日本は自己同一性の喪失の危険にさらされることになった。
この危険から身を守るためには,日本をそこへ引きずりこもうとする外的自己を残余の内的自己から切り離して非自己化し,いいかえれば真の自己とは無関係なものにし,内的自己を純化して,その周りを堅固な砦でかためる必要があった。この砦は,B・ベッテルハイムの言葉を借りれば「うつろな砦」であり,自己同一性を確保し得るものではないのだが,自己喪失の恐怖にかられた者には,そのようなことにかまっていられる心のゆとりはない。そこで,不安定な内的自己を支える砦としてもってこられたのが天皇であった。細々とつづいてはいたが決して一般的ではなかった尊王思想が幕末に至って急に強く打ち出され,明治以降もひきつづいてある程度広範に国民のあいだに浸透し,受け容れられるに至ったのは,ここに理由がある。
この文章は,自分にとって分かったような,分からないような内容です。自分なりに解釈すると,つぎのようになります。
日本は1300年?来の独自の文化を保ちつつ一国だけで,他国に惑わされずに生活を続けたかったのですが,欧米強国によって無理やり開国させられて,自尊心が傷つけられました。かといって,欧米諸国を追い払うだけの軍事力もないので,言うことを聞くしかなかったのです。表向きは欧米の言うことを素直に聞いて,自尊心が大きく傷つけられ,内向きには日本は天皇を中心とした独自のすばらしい文化を持っていて,欧米に負けない素晴らしい国なんだと自認している,みたいな感じでしょうか。表向きと内向きの考え方のダブルスタンダードが今の日本を象徴しているということでしょうか。
ここで問題です。
問題2.そもそも個人の統合失調症とは,どんな症状(状態)なのでしょうか。次の予想から1つ選んでください。
予 想
- ア. 特定の何かに心を奪われ、「やめたくても、やめられない」状態
- イ. 自分の置かれた環境にうまく慣れることが出来ず、社会生活に支障をきたす状態
- ウ. 思考や行動、感情を1つの目的に沿ってまとめていく能力が長期間にわたって低下し、その経過中にある種の幻覚、妄想、ひどくまとまりのない行動が見られる状態
- エ. 精神的ストレスや身体的ストレスなどを背景に、脳がうまく働かなくなっている状態
- オ. 自分でもつまらないことだとわかっていても、そのことが頭から離れず、わかっていながら何度も同じ確認などを繰り返す状態
正解は,ウ. 思考や行動、感情を1つの目的に沿ってまとめていく能力が長期間にわたって低下し、その経過中にある種の幻覚、妄想、ひどくまとまりのない行動が見られる状態になります。(ちなみに,問題1の精神的な病名の記号は,それぞれ問題2の記号と対となっています。)
岸田氏は,日本をそんな風に見ているということになります。日本の幻覚や妄想とは何か気になるところですが,後で出てきます。
話を本文に戻します。岸田氏は次のように書いています。
ペリー・ショックにひきつづいて,屈辱的開国を不本意ながら強制されたために人格分裂を起こし,自己喪失の危険にさらされた日本国民は,その恐怖から逃れるためのつっかえ棒を必要としたのであり,天皇制はまさにそのための好都合なつっかえ棒に向いていた。つまり,支配者の側から押しつけられなくても,天皇制を受け容れる心理的基盤は国民の側にもあったと思う。
明治維新が成り,開国論(外的自己)と攘夷論(内的自己)との抗争は一応,前者の勝利に終わり,後者は神風連の乱から西南の役に至る一連の事件を通じて散発的に吹きだしたものの,深く潜行することになった。だがもちろん,消滅したわけではない。抑圧されたものは必ずいつかは回帰する。開国は一時の便法であり,本音は攘夷にあった。本来なら外的自己が内的自己のありのままの自発的表現であり,かつ内的自己が外的自己の行動を自分の主体的意志に発し,自分が決定でき,自分に責任がある行動であると実感していてこそ,人格の統一性,自己同一性は保たれるのである。外的自己と内的自己とを使いわけ,外的自己を危機的状況,脅威的外敵に対処するための一時の仮面とするならば,内的自己は外的自己に対するコントロールを失い,そのうち,外的自己は内的自己の意志とは無関係に振舞いはじめ,その行動は自分ではなく他者によって決定されるように感じられてくる。(略)このような分裂病質者の行動特徴は,幕末から現代に至るまで,アメリカをはじめとする欧米諸国に対する日本の対外態度をつらぬいている特徴である。
ここで,問題です。
問題3.岸田氏は次のように言います。「欧米諸国に屈従する外的自己は,その存在を否認しなければならない。それは,いやが上にも純化された内的自己の自尊心に突き刺さった棘になる。外的自己は非自己化され,投影される」つまり,日本は自分の自尊心を守るために自分がされた同じことを違う国にしたということです。その投影の対象に選ばれたのは,どこの国でしょうか。
予 想
- ア.朝鮮
- イ.中国
- ウ.朝鮮と中国
- エ.その他
答えは,ア.朝鮮になります。
欧米諸国に屈従する自己の劣等な部分を朝鮮人に投影し,本来は自己軽蔑であるところのものをふり向けたのである。それは,本来は自己軽蔑であるがゆえに,公然とは容認できなかった。うしろめたいものであった。そして,その対象である朝鮮人は日本人でなければならなかった。日本人は,おのれを恐ろしい攻撃者である欧米人と同一視して日本を欧米化し,朝鮮を日本化することによって,欧米と日本の関係を,日本と朝鮮との関係にずらして再現しようとした。欧米との関係で自己同一性を建て直そうとした。おのれの自己同一性を失った者は,他人にとっての彼の自己同一性の重要性に無感覚になるのである。実際,日本人は,祖国の言葉と祖先からの氏姓を奪われた朝鮮人の気持ちに驚くほど無感覚で,植民地人を奴隷化するヨーロッパ人と違ってむしろ温情的に扱ってやっているつもりであった。しかし,防衛機制というものはすべて一時逃れにしか過ぎず,そのようなことで自己同一性が回復されるはずはなく,また,屈辱感が解消されるはずもなかった。
ここで問題です。
問題4.岸田氏によると,日本は精神分裂病的といいます。それでは,対米英宣戦布告は病気に例えると次のうちどれに当たると岸田氏は言っているでしょうか。
予想
- ア.発病
- イ.病気の完治
- ウ.完治に向けての宣言
- エ.その他
答えは,ア.発病になります。岸田氏は次のように書いています。
宣戦布告はまさしく精神分裂病の発病である。突然奇妙な言動をしはじめるとはたの者には見えるが,発狂したものの主観としては真剣なのであって、これまで無理やりにかぶせられていた偽りの自己の仮面をかなぐり捨て、真の自己に従って生きる決意をした時が、すなわち発狂なのである。
ペリー・ショック以来引き裂かれていた日本国民の人格は対米開戦によってはじめて一応の統一を見たのであった。長期にわたる葛藤と自己疑惑の果てにやっと手に入れたこの統一を守り抜くためには,日米戦争に勝かたねばならなかった。負ければ元の恐るべき葛藤と自己同一性喪失の状態に逆戻りすると言う恐れが,日本のような小国の実力からすれば不相応に大きなエネルギーを戦争に結集させた動機の一つであろう。
ここで問題です。
問題5.太平洋戦争(大東亜戦争)での日本敗戦の原因について,日本社会ではいろいろ言われています。岸田氏は,日本敗戦の原因についてどう見ているでしょうか。次の予想から選んでください。(答えが,一つとは限りません)
予 想
- ア.日本の戦いは精神主義だったから
- イ.合理的な目的がなかったから
- ウ.現実感覚が無かったから
- エ.その他
答えは,ア.イ.ウ.全てになります。岸田氏は,次のように書いています。
日本の敗北に拍車をかけたのは,日本軍の現実感覚の不全であった。現実感覚の不全は,外的自己と切り離されて,真空のなかで純化された内的自己の宿命であるが,日本軍のそれは,補給と情報の軽視,作戦の柔軟性の欠如などによく表れていた。そして,必勝の信念や敵愾心や大和魂などの精神主義が強調された。日米の戦いは精神対物質の戦いであると言われた。日本の本当の戦争目的が現実的,合理的打算よりはむしろ,危うくされた自己統一性の回復という精神的なものにあったのだから,精神主義は自然のなりゆきであった。現実的,合理的打算が目的ならば,そもそも戦争を始めなかったであろうし,たとえ始めてしまったとしても,もっと傷の浅いところで手をひくことができたであろう。
敵のレーダーによって夜戦はかえって不利となったにもかかわらず,夜戦は伝統的特技だと相変わらず夜戦に固執した日本海軍,イギリス軍の高級将校を捕虜にして味方の作戦がすでに敵に知られているのが分かったのに,一旦決められたことはかえられないとそのまま強行してみじめな敗北を喫したインパールの日本陸軍などの例は情勢の変化に対処するための現実感覚が一本抜けていたことを示している。日本軍は馬鹿をわざわざ選んで作戦参謀にしているのではないかと敵の司令官が言ったほどである。日本軍は失敗に懲りずにいつも同じ戦法で攻撃してくるので,敵としてはこれほど対処しやすい相手はいなかった。
日本刀を抜き放って敵の機関銃陣地になぐりこんでも,その姿は壮烈だが,まず無駄死にだった。特攻機も四千機あまり出撃したが,三千数百機はむなしく海に落ちた。こうした特攻戦法は,実際的効果よりもむしろ,大和魂の真髄を示すという精神的効果のため遂行された感が強い。しかし,そのような精神的効果は敵には通用せず,日本人みずから悲壮がっているだけの自己満足でしかない。その種の自己満足こそは,現実の世界との生ける接触を失った分裂病的自閉性の特徴の一つである。
ここで問題です。
問題6.敗戦後の日本では,精神分裂病的な態度はどのようなものになったと岸田氏は,書いているでしょうか。予想の中から選んでください。(答えが,一つとは限りません)
予想
- ア.自主的外交を進めた
- イ.国際社会に認められるように熱心に切望した
- ウ.国の経済成長へ努力した
- エ.その他
答えは,イとウになります。岸田氏は,次のように書いています。
本土決戦,一億玉砕を叫んでいた日本人は一夜にして従順なお人よしの平和主義者になった。それまで表面に出していたのは内的自己を抑圧し,抑圧していた外的自己を表面に出す決心をしたのである。外的自己と内面自己との分裂は従来のままである。分裂病質者の場合も同じだが,内的自己を表面に出しているときが,発病期,外的自己を表面に出しているときが病前期または寛解期である。日本人は,内的自己をひた隠しにし,外的自己において他人に認められようとした。またしても戦後の日本ほど,国連加入をはじめ,国際社会に認められることを熱心に切望した国はない。
アメリカに対する態度は一変し,鬼畜米英は自由と民主主義の国アメリカとなった。戦後の外交は,独立後さえ,対米追従外交に終始した。これは,ペリー・ショック以来の日本人のアメリカ・コンプレックスとでも言うべきものである。
抑圧された日本人の内的自己は,戦後において経済成長に表現の道を見出した。日本人は気ちがいのように働いた。戦後,事業を起こし,あるいは立て直して成功した人たちの告白を読んでみると,生き残ったわれわれががんばらねば戦死した者たちにすまないという気持ちを述べたものが多い。別に企業家でなくても,一介の労働者の感想にも,仕事の苦しいときにはガダルカナルの日本兵はもっと苦しかったであろうと思ってがんばったというのがある。こういう気持ちは,当人は気づいているかどうかわからないが,今自分のしている仕事は戦時中の日本人の努力を引き継いだものであるという前提がなければ,生じ得ない。
それでは,最後の問題です。
問題7.岸田氏が言うところの「日本の幻覚や妄想」とは何だと思いますか。次の予想の中から選んでください。
予 想
- ア.皇国史観
- イ.神国日本
- ウ.邪馬台国と卑弥呼
- エ.その他
正解は,ア.皇国史観になります。岸田氏は,次のように書いています。
皇国史観はまさしく誇大妄想体系である。分裂病者が現実の両親を自分に生命を与えた起源として認めず,神の子であるとか,皇帝の落 であるとか称する(血統妄想)のと同じように,天皇の万世一系が信じられ,日本文化の独自性が強調され,日本文化の起源における朝鮮や中国の文化の役割は不当に過小評価された。日本の古代史は現実の歴史であってはならなかった。神話こそ真実でなければならなかった。はたからはどれほどおかしな,不合理なものに見えようとも,妄想体系は維持される。内的自己の独自性を支えるために必要だからである。いっさいの世俗的欲望とは無縁で,すべてのことに責任があると同時にすべのことに責任がなく,純粋にして金甌無欠,神聖にして不可侵,ただ無私無償の献身を捧げることのみ許されるという天皇像は,純化された内的自己の理想像である。
私は,岸田氏に日本の新しい歴史の見方を教えてもらったような気がします。日本人がアメリカから真に独立しない,いや独立できない理由が理解できました。日本軍が,なぜインパール作戦のような馬鹿げた作戦を計画・実行したのか,太平洋の島々で玉砕したのはなぜか,特攻隊をなぜ作ったのか,その意味が理解できたように思いました。岸田氏が言うところの統合失調症的な日本が,残念なことですが,真に独立できるはずがありません。
今の自民党政府が外的自己の代表者によって運営されていると考えると,外的自己は,内的自己を弾圧・抑圧してきたと言えるかもしれません。要は,日本の政府は外国(特にアメリカ)を気にして言いなりになり,内側には,つまり国民には厳しい態度を貫いている,と言ってもいいかもしれません。本当のことは分かりませんし,この考え方は不十分であるかもしれません。しかし,私の疑問は岸田氏によって一応解決することができました。
さて,岸田氏は「ペリー・ショックが日本人に与えた心の傷はまだ癒えていない。それを癒すためには外的目的と内的自己との統一が必要である」と書いています。そのためには,日本人はどうすればいいのでしょうか。難しい問題です。
日本人はどうすればいいのか,私なりの答えを考えてみます。日本人にとって,板倉さんが言うところの<仮説実験>の精神で生きていくのがいいだろうと思います。何が正しいのかを日本国民の総意として<仮説実験で決めていく>ということです。日本が真に独立できるにしても,相当長い年月が必要であろうことは容易に理解できます。欧米の世界を支配する力は,残念ながらまだまだ,かなり大きいと思わざるを得ません。
みなさんは,岸田氏の主張と私の考え方にどのような感想をもたれたでしょうか。
アナロジー※1:言葉の説明
エス(es):言葉の説明(岸田氏はこのエスという言葉をよく使っています)
最後まで読んでいただき,ありがとうございました。